法律お国事情~台湾篇~ 第1回配信 親権 (3)
【台湾民法の監護権】
この後、台湾の民法は、このあと「第四章 監護 第一部 未成年者の監護」となります。
「監護權」について、関連する幾つかの条項を次ぎに掲げます。
第1091条(監護人の設置)
未成年の子女に父母がいない場合、もしくは父母のいずれもが子女に対する権利、義務の行使、負担を行うことができない場合、監護人を置かなければならない。但し、未成年者ですでに結婚した者はこの限りでない。
第1092条(委託監護人)
父母は未成年子女について、特定の事項がある場合、一定期間内他人に監護行使の職務を委託することができる。
第1093条(遺嘱監護人)
父母が死亡してからであっても、遺嘱によって監護を指定することができる。
第1094条(法定監護人)
1、父母のいずれもが子女に対する権利、義務の行使、負担を行うことができない場合、もしくは父母が死亡して、遺嘱によって監護を指定することがなかった場合、次ぎに掲げる順序にしたがって監護人を定める。
(1)未成年者と同居している祖父母
(2)未成年者と同居している兄、姉
(3)未成年者と同居していない祖父母
(以下略)
【比較・・・日本と台湾の親権】
日本と台湾における「親権」の法律上の定義を比較すると、監護教育権については、日本も台湾も明確に定めています。居住指定権について、台湾の民法では明確に定めていませんが、子女に対する「保護」の一環に含むと解釈することができます。財産管理権について、台湾の民法では具体的に「子女の特有財産」の管理を明確に定めています。法定代理権についても、日本、台湾いずれの民法もはっきり定めています。
また、親権は、日本でも台湾でも、権利であり、義務でもあります。
こうして見ると、日本でいう「親権」は、台湾の民法で定める「親権」とほぼ変わらないということができます。
もっとも、台湾の民法に基づけば、次ぎのような会話を想像することも可能です。
父「民法第1084条に基づいて、もっと親孝行しろ。さもないと、1085条によって懲戒するぞ!!」
子「父ちゃん、それは親権濫用や!1090条に基づいて裁判所に申立てたるで!」
【比較・・・台湾における親権と監護権】
台湾の民法によれば、未成年者に対する監護権は、死亡などによって父母がいなくなった場合、または未成年者の父母のいずれもが、権利、義務を行使することができなくなった場合、監護人を設け、監護権が付与されます。
子供の出生によって、親としての権利、義務が発生し、子供の成年によって、その権利、義務が消滅する親権と、父母の死亡、もしくは父母の権利、義務を行使する能力喪失で監護人を設けることによって発生する監護権とは、この点において異なります。親権と、監護権との、その他比較は、又の機会に譲ることにします。
【台湾における“親權”の実態】
以上述べたように、台湾において「親権」と「監護権」とは、民法の規定において明らかに異なるのですが、一般では、両者を混同しているのか、「親権」という言葉を聞くことは稀で、ほとんど「監護権」という言葉を使っています。
そこで、台湾における“親權”の実態について、考えてみました。
台湾台北地方法院(地方裁判所)のある事件の判決書から抜粋してみました。
「按現行民事訴訟法中親子關係事件之規定,雖未定有確認親子關係訴訟之類型,但親子關係存否,不僅?及相關當事人身分關係之確定,同時對於例如親權、扶養、法定代理甚至 繼承等法律關係之成立或存在與否,皆?生重要之關連・・・」
現行の民事訴訟法における親子関係事件の規定には、親子関係の訴訟の類型を定めていないが、但し、親子関係が存在するか否かは、当事者の身分の確定に関連するのみならず、同時に、例えば親権、扶養、法定代理、甚だしくは相続などの法律上の関係が成立するか否かについても、重要な関連性が生まれてくる・・・」
この判決から見ると、台湾における“親權”は、本来監護教育権、居住指定権、財産管理権、法定代理権を含んでいるはずですが、監護権(扶養)、法定代理権と並列させた書き方になっています。
これは、台湾の“親權”の曖昧さ、もしくは言葉を使用する上での多様性に起因しているものと考えることができます。即ち、台湾の“親權”は、親子の関係における身分を確定する作用を具えています。例えば、上述する台湾の民法第1084号では、
1、子女は父母に孝行しなければならない。
2、父母は未成年の子女に対して保護、教育、養育の権利、義務を有する。
と規定しています。
即ち、“親權”を有する者は、子女が孝行する対象であり、相対的に、その子女を保護、教育、養育する権利、義務を有する者となります。このように解釈すれば、“親權”が親子関係の存在を示す場合につき、親であることの身分を表し、扶養、法定代理、相続権と並列させて記載されることになります。
一方で、言葉としての使い方から“親權”と“監護權”とを比べた場合、“監護”は中国語において、名詞としも、動詞として使用できます。日本語では「監護」、「監護する」と使い分けます。しかし、“親權”の“親”は、中国語で名詞としても、動詞としても使用でしますが、中国語の動詞としての“親”は、「親しむ」甚だしくは「口づけする」の意味となり、“親權”の意味から外れます。ですから、「監護」という言葉は、中国語において使い勝手のよい言葉といえます。そして、例えば「親権を行使して、誰誰が監護する」といった言葉の表現から「監護する権利=監護権」という認識が浸透して言ったといえるかもしれません。言い換えれば、本来“親權”は監護教育権、居住指定権、財産管理権、法定代理権を含んだ権利ですが、その内、監護教育権だけが重視され、かつ多用された結果、「監護する権利=監護権」という狭い認識、偏った使い方が広まったといえます。因みに、後見人を中国語に訳すと、やはり“監護人”となります。
【まとめ】
以上述べたように、台湾において「親權」と「監護權」とは、民法の規定において明らかに異なります。「親權」は、監護教育権、居住指定権、財産管理権、法定代理権を含んだ総合的な権利、義務ですが、一方では、
「親權」は親子関係の存在を示す、親としての身分を表す場合があります。
「監護權」は、親が子を養育する場合、親以外の者が未成年者を養育する場合、後見人の行為など、幅広い「監護する」権利を表します。しかも「監護する」という言葉は、「親權」について語る場合も、「監護權」について述べる場合も、常用されています。
そして、台湾社会における「親權」に対する認識は、一般に狭く偏ったものになっていることから、「親権」という言葉を聞くことは稀で、ほとんど「監護権」という言葉を使っています。台湾の弁護士の先生すら「監護権」を使っています。もっともこれは、社会一般の慣習に合わせて「監護権」と言っていたのが、いつの間にか癖になってしまったのかもしれません。
台湾では、離婚問題に際して、子供を誰が養育するか争う場合に、メディアも含め、社会一般で「監護権」といいますが、それは、台湾の民法でいう「親権」であって、日本の民法で定める「親権」とほぼ同様の権利、義務のことです。但し、言葉の使い方について、注意する必要があります。