第2回配信 結婚・・・その1「重婚」
台湾といえば・・・・どのようなイメージを思い浮かべますか。ちょっと外国生活を体験してみたい、ということで半年、1年ほど台湾へ。ついでに北京語の勉強を、などといった経験を持つ方も結構いらっしゃることと思います。ビジネスでは、中国で台湾資本の企業とタイアップなどといったケースも最近は良く聞きます。また、日本でも台湾からの留学生があらゆる分野でがんばっています。
台湾は、以前からずっと身近な存在です。あなたの近くで、台湾とのコンタクトが起きているかもしれません。
実は、台湾の人と結婚というケースは、意外に多いようです。そこで、日本と台湾の民法を比較して、結婚について考えてみたいと思います。
日本の民法では第731条以降、台湾の民法では第980条から、結婚について規定しています。
内容は、例えば婚姻適齢をはじめとして、共通する点が多いですが、注意してみると、台湾の民法には、日本と異なる箇所を発見することができます。これらは、お国事情によるものでしょうが、その違いについて、次ぎに述べて行きます。
【重婚の禁止】
日本でも、台湾でも重婚を禁止しています。
(日)第732条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。
しかし、台湾では次ぎのように規定しています。
(台)第985条
(1)配偶者のある者は,重婚してはならない。
(2)一人が同時に二人以上と結婚してはならない。
「重婚」とは、配偶者のある者が重ねて婚姻することを指します。つまり、配偶者のある者が、その婚姻関係を解消することなく、他者と結婚することですが、実際には、行政の管轄である官公庁に結婚届けを行なう段階において、すでに配偶者のあることが明らかになります。ですから、結婚届けは受理されず、重婚も成立しないことになります。日本では、重婚事件は極めて稀です。そのほとんどが文書偽造によって婚姻歴を秘匿して結婚届けを提出したケースです。重婚は刑法で定められた罪で、刑法184条では2年以下の懲役に処すると規定しています。重婚の相手方も同罪としています。
このようなリスクを負ってまで重婚するよりは、内縁関係のままでいたほうがよいというのも、一つの考えです。
ところが、ここで思いもよらぬ抜け穴を見つけました。仮に、あくまでも仮に・・・・配偶者のない者が、二人以上の相手と同時に結婚した場合は、どうなるでしょうか。
確かに、理論的には重婚が成立しないとも言えませんが、結果として重婚の状態になるので、日本では、先ず認められないでしょう(そんなこと思いつく人も、しようとする人もいないでしょう)。
それでは、一妻多夫はどうでしょうか、いわゆるポリガミーといわれる複婚、もしくは集団婚ともいえる多夫多妻は・・・・このような複雑怪奇な難問を想定したのか、台湾の民法では、上述するように「一人が同時に二人以上と結婚してはならない」と規定しています。これも、台湾のお国事情でしょうか。拙稿では、便宜上「台湾の民法」としていますが、正式には「中華民国民法」とすべきで、即ち、「中華民国」とは、清朝の正統な後継者ということで、台湾のみならず、中国全土を治める政府という建前になっていることから、その民法には、漢民族以外に、多岐にわたる少数民族を統合せんとする意図が少なからず残っています。察するに、単純に「重婚」だけでは明確に定義できない風習、慣習なども想定した上でのこのような民法の規定と考えます。
なお、日本でも、台湾でも、重婚は刑法において罰せられます。
日本の刑法184條では、次のように規定しています。
「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする」
台湾の刑法第237条では、次ぎのように規定しています。
「配偶者があり重ねて結婚した者、もしくは同時に二人以上と結婚した者は、五年以下の懲役に処する。その相手となって婚姻した者も同様とする」
重婚といえば、1970年のイタリア映画の名作「ひまわり」を思い出します(古いといわないでください)。第二次世界大戦の後、帰らぬ出征兵士の夫アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)をさがして当時のソ連を旅するジョヴァンニ(ソフィア・ローレン)。そのアントニオは、ロシア戦線で美しいマーシャに命を助けられ、マーシャとの間に子供まで設けていた・・・・。
このストーリーではアントニオ君は確かに重婚ですが、法的にみるとどうなるのでしょうか。ジョヴァンニはどのような法的行為を採ることができるのでしょうか。
こうなると、離婚、財産分与まで話しが及びます。そこで、次回配信では、アントニオ君とジョヴァンニの例を挙げて、離婚問題について考えて見ましょう。
当然のことながら、現行の日本国民法と台湾の民法の比較であって、決して1940年代、50年代のイタリア法とソ連法とを比べるわけではありません。
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